強制執行(給与差押え)のやり方と2026年法改正

「もう何度もお願いしているのに、一向に振り込まれない…」と、毎月通帳を見てはため息をついていませんか。相手の不誠実な態度に、怒りや無力感を感じるのは当然のことです。でも、泣き寝入りする必要はありません。養育費は子どもの権利であり、法律はあなたの味方です。2026年の法改正で、相手が逃げ切ることはさらに難しくなりました。強制執行という「最終兵器」を使って、確実に取り戻す方法を一緒に確認していきましょうね。
やり方は一つずつ、この記事で確認できます。焦らなくて大丈夫ですよ。
まず、これだけは知ってください
- 養育費の強制執行は特別扱いで、相手の給与(手取り)の2分の1まで差し押さえることができ、将来分も毎月自動的に回収できます
- 2026年4月の法改正により、公正証書がなくても合意書があれば差押えができる「先取特権」や、財産調査から差押えまで1回で済む「ワンストップ手続き」が始まりました
- 相手の勤務先や口座が分からなくても、裁判所の「情報取得手続」を使えば、公的機関や銀行から財産を見つけ出すことができます
養育費の強制執行(差押え)は特別に優遇されている
強制執行とは、裁判所を通じて相手の財産(給与・預貯金・不動産など)を差し押さえ、強制的に回収する手続きです。養育費はお子さまの生活を支える特別な債権であるため、一般の借金などと比べて法律で強力に保護されています。
最大のメリットは「給与の差押え範囲」です。通常の借金では給与(手取り)の4分の1までしか差し押さえられませんが、養育費の場合は特別に「2分の1」まで差し押さえることが可能です。相手の生活を脅かしてでも、子どもの生活を優先させるという法律の強い意志の表れです。
さらに、養育費の強制執行では「将来分の継続回収」が認められています。一度手続きをすれば、過去の未払い分だけでなく、これからの将来の養育費についても、毎月の給与から天引きで継続的に回収できます。相手が会社員なら、勤務先が変わらない限り安定した回収が続きます。
| 一般の借金 | 養育費 | |
|---|---|---|
| 給与の差押え範囲 | 手取りの4分の1まで | 手取りの2分の1まで |
| 将来分の差押え | 不可(未払い分のみ) | 可能(一度の手続きで継続回収) |
| 時効 | 原則5年 | 協議・公正証書は5年、調停・判決は10年 |
「相手の生活が苦しくなるかも…」と遠慮してしまう方もいますが、養育費は子どもの命綱です。堂々と請求して大丈夫ですよ。
強制執行に必要な「債務名義」とは?
強制執行を申し立てるには、原則として「債務名義(さいむめいぎ)」と呼ばれる公的な書面が必要です。これは「強制執行をしてもよい」というお墨付きのようなもので、具体的には「強制執行認諾文言付き公正証書」「調停調書」「審判書」「判決書」などが該当します。
もし、当事者同士で交わした単なる「合意書」や「念書」しか手元にない場合、これまでは家庭裁判所で調停を起こし、改めて債務名義を取得する必要がありました。しかし、2026年4月の法改正により、この状況が大きく変わりました。
「公正証書がないから差押えできない」と諦める必要はありません。次で詳しく説明する新制度により、回収のハードルは大幅に下がっています。
手元にある書類を確認しましょう
- 強制執行認諾文言付き公正証書(正本または謄本)
- 調停調書(家庭裁判所で作成)
- 審判書または判決書
- 当事者同士で作成した合意書・念書(※新制度で活用可能)
公正証書は「正本」か「謄本」が必要です
強制執行の手続きには、公正証書の「正本(しょうほん)」または「謄本(とうほん)」が必要です。手元にあるのが「正本」か「謄本」か確認してください。もし紛失してしまった場合でも、作成した公証役場に行けば再発行してもらえます(作成から原則20年間保管されています)。
2026年4月施行の改正民法:養育費回収の4つの新制度
2026年(令和8年)4月1日に施行された改正民法・民事執行法等は、養育費の回収実務を根本から変えました。相手の「逃げ得」を許さないための4つの強力な柱が導入されています。
1つ目は「先取特権(さきどりとっけん)の付与」です。養育費が他の借金より優先して回収できる権利として認められました。これにより、公正証書などの債務名義がなくても、取り決めの存在を証明する文書(私文書の合意書やLINEのやり取り等)があれば、差押えを申し立てられる可能性が開かれました。優先的に回収できる範囲は子ども1人あたり月額8万円までです。
2つ目は「法定養育費制度の新設」です。養育費の取り決めをせずに協議離婚した場合でも、離婚の日から子ども1人あたり月額2万円を請求できるようになりました(2026年4月1日以降の離婚に適用)。ただしこれは最低保障であり、算定表に基づく適正額(多くの場合月4〜6万円以上)より低いため、適正額の取り決めは引き続き重要です。
3つ目は「執行手続のワンストップ化」です。従来は財産調査と差押えを別々に申し立てる必要がありましたが、改正後は1回の申立てで、財産調査(市町村・年金事務所への勤務先照会等)から差押えまで連続して進められるようになりました。
4つ目は「情報開示命令の新設」です。養育費の調停・審判で、裁判所が当事者に収入・資産情報の開示を直接命じることができるようになり、正当な理由なく開示しない場合や虚偽開示には10万円以下の過料が科されます。

| 新制度 | 内容 | 注意点 |
|---|---|---|
| 先取特権 | 債務名義がなくても合意書等で差押え申立てが可能に | 優先枠は子1人月8万円まで。施行日以降発生分が対象 |
| 法定養育費 | 取り決めなしでも子1人月2万円を請求可能 | 2026年4月1日以降の離婚に適用 |
| ワンストップ執行 | 財産調査から差押えまで1回の申立てで完結 | 申立ては必要(自動で回収されるわけではない) |
| 情報開示命令 | 裁判所が当事者に収入・資産の開示を命令 | 不開示・虚偽開示は10万円以下の過料 |
これまでは「公正証書がないとダメ」と言われていましたが、今は合意書やLINEのやり取りでも差押えができる可能性があります。諦めずに専門家に相談してみてくださいね。
相手の勤務先や口座が分からない場合はどうする?
「相手が転職して勤務先が分からない」「どこの銀行を使っているか知らない」という場合でも、諦める必要はありません。裁判所の「第三者からの情報取得手続」を使えば、公的機関や金融機関から相手の財産情報を調査できます。
例えば、勤務先を知りたい場合は、市町村(給与支払報告書)や日本年金機構(厚生年金)に照会をかけることができます。預貯金口座を知りたい場合は、銀行の本店に照会をかければ、全支店の口座情報を教えてもらえます。
さらに、前述の「ワンストップ手続き」を利用すれば、この財産調査から実際の差押えまでを1回の申立てでスムーズに進めることができ、相手に財産を隠される前に素早く回収することが可能です。

強制執行の申立て手順と費用
強制執行(債権差押命令)は、原則として相手の住所地を管轄する地方裁判所に申し立てます。申立てには、債務名義(公正証書など)に加えて、「送達証明書」と「執行文」という書類が必要です。これらは、公正証書を作成した公証役場や、調停を行った家庭裁判所で取得します。
その他にも、当事者の戸籍謄本や住民票、差押債権目録(何を差し押さえるかを書いた書類)など、多くの専門的な書類を作成・収集する必要があります。費用は、収入印紙4,000円(債権者・債務者・第三債務者が各1名の場合)と、連絡用の郵便切手(3,000円程度)です。
裁判所が申立てを認めると、相手の勤務先や銀行(第三債務者)に差押命令が送られ、相手の財産が凍結されます。給与差押えの場合は、その後、勤務先からあなたに直接養育費が振り込まれるようになります。
書類の不備があると手続きが遅れます
強制執行の申立書類は非常に専門的で、少しでも不備があると裁判所から修正を求められ、手続きがストップしてしまいます。その間に相手が財産を隠してしまうリスクもあるため、迅速かつ正確な手続きが求められます。
強制執行のデメリットと後悔しないための注意点
強制執行は最も確実な回収手段ですが、実行する前に知っておきたいデメリットや注意点もあります。事前に把握しておけば、「こんなはずではなかった」という後悔を防げます。
最大の注意点は、相手との関係が決定的に悪化する可能性です。給与差押えでは裁判所から勤務先に通知が行くため、相手は未払いを会社に知られることになります。これが心理的な引き金となり、面会交流や今後の連絡がぎくしゃくするケースはあります。ただし、そもそも支払わない相手側に原因があることを忘れないでください。あなたが罪悪感を持つ必要はありません。
実務面では、相手が差押えを察知して退職・転職してしまうと給与差押えが空振りになるリスク、相手に本当に財産がない場合は費用と労力が回収に結びつかないリスクがあります。また、差押えできるのは手取りの2分の1まで(通常の債権は4分の1までのところ養育費は優遇)という上限もあります。
万一、相手に退職・転職されて差押えが空振りになっても、そこで終わりではありません。新しい勤務先の調べ方や退職金の差押えなど、回収を続ける具体的な方法は「相手が転職・退職したら養育費はどうなる?」→記事を読むで詳しく解説しています。
| デメリット・リスク | 内容 | 対策 |
|---|---|---|
| 勤務先に未払いが知られる | 裁判所から会社へ差押命令が送達される | 事前の内容証明で「差押え前の最後通告」を行い自発的支払いを促す |
| 相手が退職・転職する | 給与差押えが空振りになる可能性 | 預貯金口座の差押えを併用、情報取得手続で新勤務先を再調査 |
| 相手に財産がない | 費用・労力が回収につながらない | 財産開示手続で事前に資産状況を確認してから申し立てる |
| 関係悪化・報復の懸念 | 面会交流などへの影響が心配 | 弁護士名義で手続きし直接接触を避ける。危険がある場合は住所秘匿制度を利用 |
「差押えまでするのはやりすぎかな…」とためらう気持ち、よく分かります。でも強制執行は法律が認めた正当な権利です。デメリットは対策でカバーできるものがほとんどですから、必要以上に恐れなくて大丈夫ですよ。
確実で早い回収のために、弁護士への依頼を検討する
ここまで強制執行の手順を説明してきましたが、正直なところ、この手続きをすべて自分一人で行うのは非常にハードルが高いのが現実です。書類作成の難しさに加えて、平日の日中に公証役場や裁判所、役所を何度も往復する必要があるからです。
そのため、強制執行を行う場合は、弁護士に手続きを丸ごと依頼するのが一般的です。弁護士に任せれば、複雑な書類作成や財産調査、裁判所とのやり取りをすべて代行してくれます。何より、プロが迅速に動くことで、相手に財産を隠される前に確実に差し押さえることができます。
「弁護士費用が心配」という方も多いと思いますが、最近は「着手金0円・完全成功報酬制」で養育費回収を引き受けてくれる法律事務所が増えています。この場合、回収できた養育費の中から報酬を支払うため、持ち出しの費用リスクなしで依頼できます。また、法テラスを利用すれば、費用の立替え制度も利用可能です。
一人で抱え込まず、まずは無料相談を利用してみてください。専門家が味方になってくれるだけで、心の負担がすっと軽くなりますよ。
よくある質問
Q.2026年4月より前に離婚したのですが、新制度は使えますか?
Q.相手が自営業(フリーランス)の場合、給与差押えはできますか?
Q.強制執行をすると、相手の会社に養育費の未払いがバレてしまいますか?
Q.相手が自己破産した場合、養育費はどうなりますか?
Q.強制執行を申し立ててから、実際にお金が振り込まれるまでどのくらいかかりますか?
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※こちらでの解説は一般的な内容であり、個別のケースへの法的助言ではありません。具体的な判断に迷うときは、必ず専門家にご相談ください。