相手が海外赴任・海外在住でも養育費は請求できる?国際離婚の注意点

「元夫が海外赴任になってしまった」「相手が外国人で母国に帰ってしまった」という場合、養育費を請求できるのか不安になりますよね。海を越えると手続きが難しそうに感じますが、諦める必要はありません。日本の裁判所で手続きができるケースも多くあります。海外送金の方法や、もしもの時の差し押さえについても、一緒に確認していきましょうね。
まず、これだけは知ってください
- 相手が海外にいても、子どもの住所が日本にあれば、原則として日本の裁判所で養育費の調停を申し立てることができます
- 海外送金には手数料や為替変動のリスクがあるため、日本円での支払いや国内口座への振り込みを優先して交渉しましょう
- 海外の財産を差し押さえるのは現実的に非常に困難です。出国前に公正証書を作成し、国内の財産を把握しておくことが重要です
1. 相手が海外にいても養育費は請求できる
離婚した相手が海外に住んでいる場合でも、親としての子どもに対する扶養義務がなくなるわけではありません。そのため、相手が海外赴任中の日本人であっても、母国に帰国した外国人であっても、養育費を請求することは可能です。距離が離れているからといって、親としての責任から逃れられるわけではありません。
国際的な養育費請求において問題となるのは、「どこの国の法律が適用されるか(準拠法)」と「どこの国の裁判所で手続きができるか(国際裁判管轄)」という2つの点です。養育費の準拠法については、「法の適用に関する通則法」により、原則として「子どもの常居所地法(子どもが普段住んでいる国の法律)」が適用されると定められています。つまり、子どもが日本で生活しているのであれば、日本の法律に基づいて養育費の金額や支払い期間を決めることができます。
また、日本の裁判所で調停や審判ができるかどうか(国際裁判管轄)についても、人事訴訟法や家事事件手続法の改正によりルールが明確化されました。扶養権利者(養育費を受け取る側)や子どもの住所が日本にある場合は、原則として日本の家庭裁判所に管轄が認められます。したがって、相手が海外にいて住民票が日本になくても、日本の裁判所に養育費請求の調停を申し立てることが可能です。相手の住所地を管轄する家庭裁判所ではなく、あなたや子どもが住んでいる地域の家庭裁判所で手続きを進められるのは、大きな安心材料と言えるでしょう。

「相手が海外にいるから日本の法律は通じない」と諦める必要はありません。子どもが日本で暮らしているなら、日本のルールで守られますよ。
2. 【ケース別】海外在住の相手への養育費請求
相手が海外にいる状況は、大きく分けて「日本人が海外赴任している場合」「外国人が母国に帰国した場合」「国際結婚で離婚した場合」の3つに分類できます。それぞれのケースで注意すべきポイントが異なります。
| ケース | 状況と特徴 | 対応のポイント |
|---|---|---|
| 日本人が海外赴任中 | 日本の会社から派遣されており、住民票を抜いている場合もある。国内に銀行口座や不動産を残していることが多い。 | 国内の給与振込口座や財産を把握しておく。日本の裁判所で手続きを進めやすい。 |
| 外国人が母国に帰国 | 日本での在留資格を失い帰国。日本国内に財産を残していない可能性が高い。 | 帰国前に公正証書を作成する。帰国後は連絡が途絶えるリスクが高いため、保証人を立てるなどの対策を検討する。 |
| 国際結婚で離婚 | 相手の国籍や居住国によって適用される法律や制度が異なる。共同親権の国もある。 | 子どもの連れ去り(ハーグ条約)に注意する。相手国の制度(養育費の強制徴収など)を利用できるか確認する。 |
ハーグ条約は「養育費」の条約ではありません
「ハーグ条約」を養育費の取り立てに使えると誤解されることがありますが、これは「国境を越えた子どもの不法な連れ去り」を防ぎ、元の居住国に子どもを返還するための条約です。養育費の請求や強制執行を直接サポートするものではありません。
3. 海外在住の相手との取り決め方
相手が海外にいる場合でも、まずは当事者同士の話し合い(協議)で養育費を取り決めるのが基本です。時差や連絡手段の制約はありますが、メールや通話アプリなどを活用して、金額や支払い方法について連絡を取り合いましょう。合意できた場合は、口約束で終わらせず、必ず「公正証書」を作成しておくことが極めて重要です。
公正証書を作成するには、原則として公証役場に本人が出頭する必要があります。しかし、相手が海外にいて出頭できない場合は、日本にいる親族や弁護士などを「代理人」として立てることで作成が可能です。代理人を立てるには、相手の署名と実印(またはサイン証明)、印鑑証明書(または在留証明書)を添付した委任状が必要になります。海外の日本大使館や領事館でサイン証明や在留証明書を取得してもらう手間はかかりますが、将来の未払いリスクを防ぐためには不可欠な手続きです。
話し合いでまとまらない場合や、相手が連絡を無視する場合は、日本の家庭裁判所に養育費請求調停を申し立てます。相手が海外にいて裁判所に出頭できない場合でも、電話会議システムやウェブ会議システムを利用して調停を進めることができます。調停委員を介して話し合うことで、相手も事の重大さを認識し、合意に応じる可能性が高まります。
4. 支払いの実務:海外送金と為替変動のリスク
相手が海外の銀行口座から日本の口座へ養育費を送金する場合、国内の振り込みとは異なるいくつかの実務的な問題が発生します。最も大きな問題は「送金手数料」と「為替変動」です。これらを考慮せずに取り決めをしてしまうと、後々トラブルになる可能性があります。
海外送金には、送金元の銀行手数料、中継銀行の手数料、受け取り銀行の手数料など、数千円単位のコストがかかることが一般的です。この手数料をどちらが負担するのかを明確に決めておかないと、受け取る金額が毎回目減りしてしまいます。原則として、支払う側(義務者)が送金手数料を負担するよう交渉しましょう。
また、外貨建て(例えば「毎月500ドル」など)で養育費を取り決めると、為替レートの変動によって毎月受け取れる日本円の金額が変わってしまいます。円高になれば受け取る金額が減り、生活設計が不安定になります。子どもの生活費を安定させるためには、「日本円で月額〇万円」と通貨を定めて取り決めるのが最も安全です。
海外送金に関する取り決めのチェックリスト
- 支払いは「日本円」で金額を固定する
- 送金にかかる全ての手数料は「支払う側(義務者)」の負担とする
- 可能であれば、相手が日本国内に持っている口座から自動送金(または振り込み)してもらう
- 海外送金サービス(Wiseなど)を利用して手数料を抑える方法を検討する
毎月数千円の手数料でも、何年も続けば大きな金額になります。できるだけ国内の口座間でやり取りできるよう交渉してみてくださいね。
5. 相手が払わないときの強制執行の現実
相手が養育費を支払わなくなった場合、強制執行認諾文言付き公正証書や調停調書があれば「強制執行(差し押さえ)」が可能です。しかし、相手が海外にいる場合、どこにある財産を差し押さえるかによって、手続きの難易度が全く異なります。この現実を正しく理解しておくことが重要です。
相手が日本国内に財産(銀行口座、不動産など)を残している場合や、日本の会社から給与を受け取っている場合は、通常の国内の手続きと同様に差し押さえが可能です。特に海外赴任中の会社員であれば、日本の口座に給与が振り込まれていることが多いため、給与や預金を差し押さえることで回収できる可能性は高いと言えます。そのため、相手の国内口座の情報を事前に把握しておくことが非常に重要です。
一方、相手の財産が海外にしかない場合、日本の裁判所の決定をもって直接海外の財産を差し押さえることはできません。相手国の裁判所で、日本の決定を承認してもらい、その国の法律に従って強制執行の手続きを行う必要があります。これには現地の弁護士を雇う必要があり、多額の費用と時間がかかるため、現実的には非常に困難なケースが多いのが実情です。
| 財産の所在 | 差し押さえの難易度 | 手続きの内容 |
|---|---|---|
| 日本国内の預貯金・不動産 | 通常どおり可能 | 国内の強制執行手続き(債務名義が必要) |
| 日本の会社からの給与 | 通常どおり可能 | 海外赴任中でも日本法人が支払う給与は差し押さえ対象 |
| 海外の銀行口座・不動産 | 極めて困難 | 相手国での承認手続き+現地弁護士が必要。費用倒れのリスク大 |
6. 国連扶養料条約(ニューヨーク条約)と日本の状況
国境を越えた養育費の回収を容易にするための国際的な枠組みとして、「子及びその他の親族の扶養料の国際的な回収に関する条約(2007年ハーグ条約)」や「国連扶養料海外取立条約(ニューヨーク条約)」といった条約が存在します。これらは、国際的な扶養義務の履行を確保するための重要な仕組みです。
これらの条約を締結している国同士であれば、自国の中央当局を通じて、相手国での養育費の請求や回収の支援を求めることができます。これにより、個人で現地の弁護士を雇う負担が大幅に軽減されます。しかし、2026年現在、日本はこれらの条約を締結していません。そのため、条約に基づく国際的な回収支援制度を利用することはできず、個別に相手国の制度を利用して回収を図るしかありません。これが、海外財産への強制執行が「泣き寝入り」になりやすい最大の理由です。
海外財産への執行は「泣き寝入り」になりやすい
日本が関連条約を締結していない現状では、相手が完全に生活拠点を海外に移し、国内に財産がない場合、養育費の回収は極めて困難です。出国前に確実な対策を打つことが不可欠です。
7. 現実的な優先順位と出国前の対策
相手が海外に行ってしまうと、養育費の回収リスクは格段に跳ね上がります。そのため、相手が出国する前に、あるいはまだ連絡が取れるうちに、現実的な対策を講じておくことが最も重要です。後回しにすると、取り返しのつかないことになりかねません。
第一に、必ず「強制執行認諾文言付き公正証書」を作成すること。これがなければ、いざという時に国内の財産すら差し押さえることができません。第二に、相手が国内に残していく財産(銀行口座、実家の不動産など)や、勤務先の情報を正確に把握しておくこと。将来、財産開示手続きを行う際にも、これらの情報が手がかりになります。
そして、相手が外国人で帰国してしまうなど、将来の支払いが著しく不安な場合は、養育費の「一括払い」を交渉したり、日本にいる親族に「保証人」になってもらったりすることも検討すべきです。一括払いは贈与税の問題などに注意が必要ですが、未払いリスクを完全にゼロにできる強力な選択肢です。
よくある質問
Q.相手が海外赴任中で住民票が日本にありません。調停は起こせますか?
Q.海外にいる相手と公正証書を作ることはできますか?
Q.相手が外国人で、母国に帰ってしまいました。養育費は諦めるしかないですか?
Q.海外送金の手数料はどちらが負担すべきですか?
Q.ハーグ条約を使えば、海外にいる相手から養育費を取り立てられますか?
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※こちらでの解説は一般的な内容であり、個別のケースへの法的助言ではありません。具体的な判断に迷うときは、必ず専門家にご相談ください。